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「ビジネスと人権」に関するウェビナー実施報告

 ソリダリダードジャパンは、在日オランダ大使館との共催で「ビジネスと人権」に関するウェビナーを開催しました。2020年10月の日本政府による「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020ー2025)」の策定、2022年9月の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」の公表など、日本でもビジネスと人権に関する関心は高まりつつあるものの、EUではデューデリジェンスの義務化が提案されるなど欧州に比して日本での取り組みは遅れていると言わざるを得ません。

 本セミナーではオランダ外務省とオランダ企業から講師を招き、オランダやEUでのビジネスと人権への取り組みの動向や、人権尊重を掲げて短期間にビジネス的にも成功したオランダチョコレート企業からどのように取り組んでいるのかなどについて説明するとともに、日本の消費者庁が実施しているエシカル消費推進の動きも紹介し、その上で日本での取り組みなどについて議論しました。

セミナーでは自主的な取組みの限界、強制力を伴った規制の必要性、企業だけでなく消費者の理解の必要性などが指摘され、ビジネスと人権の結びつきを強めるために、現在の日本に欠けているものが明らかになりました。

自主的な取組みに限界

オランダ外務省 経済ガバナンス 通商政策局義務デューデリジェンス・コーディネーターのフィレス・フットハルト氏からは、人権尊重と人権とも密接に関連する環境保護も含めた「責任あるビジネス行動」に関するオランダ及び欧州委員会の政策が紹介された。

オランダでは2020年までは、繊維・衣料品、食品、鉱業などリスクが高い産業分野を中心に企業、市民社会、政府による協定を締結するなど自主的な取組みを促進してきた。自主的な取組であっても参加した企業においては一定の成果があったものの、リスク分野では自主的な取組に参加する企業の割合は低いこと、企業全般でみれば「責任あるビジネス行動」に取り組むのはわずかであることなどから、オランダ政府は自主的な取組みに加えて規制を組み合わせるスマートミックス政策を導入したとしている。具体的には業種に関わらず全業種を対象にし、また児童労働など特定の問題ではなく幅広く人権・環境を対象とすることが必要であり、欧州委員会によるEUレベルでの規制を支持するとしている。

EUレベルでの幅広い規制により、企業による人権侵害リスクが全体として下がることに加え、規制対象企業を拡大することにより公平な競争条件を確保することもでき、また、人権侵害リスクに取り組むことにより企業にとっても長期的には利益につながるとしている。

 自主的な取り組みの限界については、オランダのチョコレートメーカー「トニーズ・チョコロンリー」のファン・ザンテン氏も指摘した。西アフリカ地域を中心に栽培されているカカオについては、以前から児童労働、奴隷労働の問題があることは知られており、米国の連邦議員のイニシアティブによって5年以内の児童労働を目指す「ハーキン・エンゲル協定」は大手チョコレート会社が署名し、2001年に成立したものの、20年たった今も目標を達成していないことを指摘し、強制力のない自主的な取り決めでは何も変わらないと取り組みの義務化など規制の必要性を指摘する。

消費者との連携が不可欠

トニーズ・チョコロンリーは、「ハーキン・エンゲル協定」の第1期の目標期限を迎え進捗状況を調査したジャーナリストが、大手チョコレート企業がほとんど何も実行できていないことにショックを受けて、児童労働を排除したチョコレートを目指して起業した会社である。2005年の時点で企業としての歴史は浅いもののオランダの国内市場では18%のシェアを獲得している。同社の商業的な成功の要因の一つとして生産現場の厳しい現実を伝えて、消費者の理解を得たことを挙げている。他社の板チョコが同じ大きさに割れるように加工されているのに対して、同社の板チョコは、いびつな形で割れるようになっているが、カカオ・チョコレート産業におけるいびつに分断されたサプライチェーンを象徴しているという。わざといびつな形にし、カカオ産業の問題を話題にして消費者の理解を広める作戦だ。

エシカル消費の普及啓発を進める消費者庁も日本における消費者の重要性を指摘した。消費者庁では消費者教育の一環として「だまされない消費者」だけでなく「自分で考える消費者」育成に取り組んでいる。今のことだけでなく未来のことも、自分のことだけでなく地域や世界のことも考えることが含まれている。「自分で考える消費者」を育成することにより、企業に変化を起こさせること、ひいては持続可能な消費生産形態を確保し、SDGs達成にも貢献する考えだ。

企業、政府との連携が不可欠

立教大学大学院の特任教授で、不二製油グループ本社㈱ のCEO補佐を務める河口 眞理子氏も消費者によるけん引力が必要としつつも、企業がビジネスと人権に取り組むには行政などの後押しも重要としている。現状においては「ビジネスと人権」に取り組むコストを製品価格に反映することは難しく、企業が負担せざるを得ないが、そのためには政府による表彰や企業の取り組みの紹介なども重要としている。エシカル商品を求める消費者がいても商品がなければ無意味であり、企業、消費者、政府が連携して取り組むことが重要としている。

ガーナのカカオ産業における児童労働撤廃に取り組んでいる認定NPO法人ACE(エース)の佐藤有希子氏は、企業だけの取組みでは限界があると指摘する。日本のカカオ輸入の7割強を占めるガーナには77万人の児童労働があると推計されているが、サプライチェーンを遡り、児童労働を排除するのはコストの問題からも限界があり、児童労働を解決するには現地のコミュニティや行政の取り組みも必要とし、企業と現地コミュニティ、政府、それらをつなぐNGOを含めて連携し、それぞれが役割を果たすことが重要としている。

トニーズ・チョコロンリーのファン・ザンテン氏も農家との長期的な関係の構築、アフリカを含めて政府との連携が重要とし、企業だけでなく、様々な組織の連携が重要としている。

連携には課題も

西アフリカで、カカオ、パームオイルなどの分野で開発支援を行っているソリダリダード・西アフリカのハモンド・メンサ氏は民間企業や現地NGO、他の市民社会団体と協働してきた経験から「認識の共通化」が重要と指摘している。連携は重要であるが、団体それぞれに異なる考えや理論、定義などをもっており、同じ問題であっても、解決する手法、手順、目標が異なるため連携する前にはすり合わせが重要としている。

ウェビナー動画(オリジナル言語)視聴リンク:https://youtu.be/bDtSPNz7MKk

(90分間のウェビナーのうち、一部のみ公開とさせていただきます。)

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