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インドにおける農業機械市場の概要を掴む

–法制度化されたCSRに対する農業機械メーカーの対応–

はじめに

インドでは2014年に新会社法が施行され、世界で初めて民間企業のCSRが義務化されました。同国におけるCSRの起源は、植民地時代におけるフィランソロピーにまで遡ることができ、現在も企業にとどまらず個人による寄付行為が文化的土壌として普及しています。

前回のコラムで紹介した大手農業機械メーカーのMahindra & Mahindra社(インド)やDeere & Company社(米)は、自社のWebサイト上で、農村での農業生産性の向上や教育に関する支援といったCSR活動を積極的に紹介しています。Maruti Suzukiなど日系企業を含め、多くの大手企業はサードセクターの支援や共同を通してCSRに取り組み、インド国内のみならずグローバルで自社に対するレピュテーションの向上を図っています。

本コラムでは、インドにおけるCSRの制度概要に触れた上で、農業機械メーカーの事例を示し、日本企業はどのように法制度化されたインドのCSRに対応するのか検討する際の一助となることを目指します。

インドにおけるCSRの法制度化

2014年に施行された会社法では、①純資産額50億ルピー(約77億円)以上、②売上高100億ルピー(約153億円)以上、③純利益5,000万ルピー(約7,665万円)以上、のいずれかの基準に該当する企業に、CSR実施を義務付けました。対象企業は、直近3カ年の税引き前純利益の平均額の2%以上をCSR活動に当てること、また、その内容を開示することなどが求められています。KPMGが実施している上場企業のうち時価総額上位100社に対する調査によると、2018/19年のCSR履行率について、レポート公開は100%、2%以上の拠出を行った企業は76%となります(法律としては複数年の平均拠出金が2%になることを求めています)。

CSRの法制度は、2019年と2021年にも改正されており、改正を経るごとに内容が厳格化されています。例えば、インド国外の活動や従業員向けの福利厚生などは、CSRの対象領域から除外することが規定されました。

CSRの対象領域、課題

インドの民間企業によるCSRの義務化は、政府の役割の一部を企業に求める取組みと言えます。CSRの対象領域としては、飢餓や貧困の撲滅・安全な飲料水の確保、教育の促進、ジェンダー平等の促進、環境保護、文化遺産の保護など、12項目が明示されています。KPMGによる調査によれば、大手100社による2018/19年のCSR支出総額は約861億ルピー(約1,327億円)で、前年度の約683億ルピー(約1,044億円)から26%ほど上昇しています。対象領域ごとに金額をみると、教育分野が約277億ルピー(約425億円)、保健分野が約214億ルピー(約329億円)、環境分野が114億ルピー(約175億円)となり、3領域で全体の71%を占めています。

UNESCOは、2016年の段階で、企業による教育支援の事例として、インドを取り上げています。CSRとして教育が注力される背景には、インドの農村を中心に問題となる非識字率の状況や学校退学率の高さ、また農業生産力の低さなどがあり、公的な学校教育や職業訓練に加え、「低学費格私立学校」にも企業から資金拠出されています。

企業が公共部門の機能を代替する一方、課題として、企業各社は自社のオフィスや工場など関連施設が立地する地域をCSRの対象地としており、企業集約の進む州にCSR活動が集中する傾向にある点があります。加えて、大手企業のCSR活動では、過半数のCSRプロジェクトがサードセクターを中心とした他団体への資金提供や、他団体との共同で実施されていますが、十分な審査を経ずに連携先を選定していることも指摘されています。

農業機械メーカーによるCSR事例

それでは、外資系企業のDeere & Company社と、現地企業のMahindra & Mahindra社のCSR活動を紹介します。

Deere & Company社(米)

「John Deere」の名で知られるDeere & Company社は、インドのNGO「Centre for Advanced Research & Development (CARD)」と共同で、2015年から「Samruddhi (繁栄)」と名付けたプロジェクトを実施しています。同プログラムでは、農業技術の向上による農業近代化や、若者向けに教育機会の提供を行っています。プロジェクトは、4つの目標が掲げられており、開始以降20,965世帯を対象としてきたと紹介されています。主な内容は以下のような取組みです。

インド国内での発信に加え、本社のCSRレポートでもインドの活動を紹介し、さらにBloombergなどグローバルなマスメディアでも活動が紹介されています。こうしたCSR活動は、直接的な農業機械の購入を促すというよりも、農家の収入向上を促し、間接的に機械化を進める活動と言えます。

Mahindra & Mahindra社(インド)

Mahindra & Mahindra社は、1950年代から教育基金を設立し、支援を継続してきた企業でもあります。同社は「Rise for Good」というミッションを掲げ、単なるフィランソロピーやCSRを越え、ステイクホルダーに良い変化をもたらすことを目指しているとしています。まずは自社従業員のエンパワーメント、続いて事業を営むコミュニティが豊かになるような支援(教育や環境、ヘルスケア、文化保護など)や地球の再生、そして、倫理とコーポレート・ガバナンスを守ることの4つを主な活動として掲げています。同社の活動は、会社法で義務化されたCSRの範囲を超えた包括的な取組みとして実施されていると言えます。こうした結果、Brand Finance社によるブランド力のランキングで、「Mahindra Group」はインドで第8位に位置しています。

おわりに

インドの民間企業によるCSR活動は、教育、健康、農村開発の3分野を中心に、各社はSDGsとも関連づけながら、CSRレポートやビデオなどを介して、インド国内のみならずグローバルでのレピュテーション向上に活用しています。そのため、同国のCSRに日系企業のような外資系企業が取り組む際には、グローバルな視点と、インド国内に暮らす人々に訴えかける内容を調和させることが求められます。

このようなグローバルな規範とインドの実態に則した形でのCSR活動を行うにあたり、多くの企業は、単独での実施から、サードセクターを介した活動や連携による実施に移行しています。ソリダリダードは、オランダを拠点とするNGOとして、グローバルな視点を持ちながらも、インド農村で活動し知見やノウハウを蓄積してきた団体です。当団体は、日本企業がインド国内でCSR活動を行う際の提携先となることができるとともに、必要に応じて日系企業と他機関との結びつけにも貢献し、CSR活動が地域社会にとって有意義なものかつ持続的な活動となるよう促していきたいと考えています。

リサーチ・フェロー

朝倉 隆道

【主な参考文献・参考ウェブサイト】

KPMG, 2020, India’s CSR reporting survey 2019.

Center Advanced Research & Development: https://www.cardindia.org