現在、筆者はカカオ最大の生産地コートジボワールの首都アビジャンで暮らしています。そこで、今回は、日々の生活の中から見えるカカオについて書きたいと思います。
友人宅のカカオの木、ちょうど花が咲いて、実がなっています。
アビジャンでは、カカオの収穫シーズンになると、スーパーや市場の果物コーナーで、カカオの実を見かけることがしばしばあります。1個500CFA程度(約120円)とお手頃な値段で売られています。
日本ではあまり知られていませんが、カカオはチョコレートに加工するだけでなく、フルーツとしてそのまま食べることもできます。カカオの実を割ると、中に白い果肉に包まれたカカオの豆が出てきます。この白い果肉はカカオパルプと呼ばれています。フルーツとしてカカオを食べる場合は、このカカオパルプを食べ、チョコレートの原料となるカカオ豆は食べません。カカオパルプは、甘酸っぱく、チョコレートとは全く違う味で、ライチに近い味がします。この食べ方ができるのは、生産地ならではではないでしょうか。
次に、チョコレートです。スーパーの板チョココーナには、たくさんの商品が並べられていますが、その多くはヨーロッパからの輸入品です。写真に写っている棚の上から6段目位までは輸入品で、下の2段目がコートジボワール国内でつくられたチョコレートです。価格は、輸入品が板チョコで1,000-4,700CFA(約245円~1150円)で、国内品は700-1,000CFA(約170円~245円)です。また、国内で製造されたものには、より多くの人が買えるように一口サイズのチョコがあり、70CFA(約17円)程で売られています。大きさにもよりますが、輸入品の方がやはり割高です。
そして、興味深いのは、前回の記事『チョコレートの持続性を考える②』で紹介した、持続可能性に配慮したカカオを使用していることを示す認証マークです。ヨーロッパから輸入されたチョコレートには、どれも認証マークが目立つところについていますが、国内で生産されたチョコレートには認証マークはついていません。
写真の一番左が国内産チョコレート、その他は輸入品のチョコレートです。輸入品のチョコレートには、フェアトレード・ラベルやCoco Life、Rainforest などの認証マークがついています。
このようにコートジボワールは世界最大のカカオ豆の生産地であるにもかかわらず、加工品であるチョコレートの多くは依然として輸入品です。コートジボワールは世界のカカオ生産の40%を占めていますが、生産されたカカオのうち国内での加工は33%で、残りは豆の状態で輸出されています。この構造を変えるべく、近年、政府は加工産業を強化するため、カカオ加工に関する投資の優遇政策を導入し、2030年までにカカオ豆を100%国内で加工することを目標にしています[1]。では、次に加工工場についてご紹介します。
アビジャン市内のZone4と呼ばれるレストランやカフェ、スーパーのある地域には、バリーカレボーの子会社SACOの大きなカカオ加工工場があります。操業している際は、その周辺にチョコレートのような甘い香りが漂います。この工場では、最終製品であるチョコレートは生産していませんが、中間加工品としてカカオリカー、カカオバター、カカオパウダーを生産しています。
同社は1964年からコートジボワールで操業を始め、2019年に拡張工事を終え、現在は、9万トンの規模を誇ります。アビジャンの他、サンペドロやヤムスクロでも操業し、全体の生産量は21万5000トンを誇ります[2]。
工場と隣接するチョコレート販売所
また、この工場の隣には小さな店舗があり、チョコレートが売っています。工場ではチョコレートの生産は行っていないので、残念ながらここで販売されているチョコレートはすべて輸入品です。この工場で作ったカカオ加工品を輸出し、チョコレートとして輸入するという少し不思議なシステムです。
コートジボワール国内には、その他、カーギル、オラムなど外資大手企業のカカオ加工工場があり、近年では、政府の投資優遇政策により、外資のカカオ加工工場の建設が相次いでいます[i]。
また、フランスのチョコレート会社Cemoiは、2015年に国内で初となるチョコレート工場をオープンさせています。Cemoiの工場では、チョコレートの他、カカオパウダーや、チョコレートペーストを製造しています。この工場でつくられたチョコレートでは、「Cemoi」としてだけでなく、「Chocofun」というブランド名がつけられています。
近年、日本でも注目を集めるBean to Barのクラフトチョコレートですが、アビジャンにも多くのお店があります。そのいくつかをご紹介します。
2006年に創業したクラフトチョコレートのお店で、アビジャン中心地の商業施設内に店舗を持っています。自社のカカオ農園を持ち、カカオ栽培地域の持続可能な発展への貢献のため、苗木の配布や農家の女性の雇用を積極的に行っています。
先日、店舗を訪れた際、偶然にもオーナーのSuzanneさんがいらっしゃったので、少しお話を聞くことができました。Suzanneさんは、カカオ農家に直接支払われる価格が低すぎることに強い問題意識を持っていること、創業に至った思いをお話ししてくれました。残念ながら店内の撮影はできませんでしたが、カカオ農家の写真やカカオの加工工程の説明など、Suzanneさんの思いが伝わる暖かい雰囲気のお店でした。ショーケースには、たくさんのチョコレートが並んでいて、好きなチョコレートを選ぶと、きれいな箱に詰めてくれます。試食もさせていただき、最後にはお店でディスプレイしていたカカオの実をお土産にいただきました。
手作りチョコレートの箱詰め(100g)と板チョコ
次にご紹介するのは、アビジャン市内に3つの店舗を展開するクラフトチョコレートのお店L’atelier du chocolateです。
このお店では、この地図で示されている地域からカカオ豆を購入し、自社の工場でチョコレートを製造しています。お店の人に頼んだら、工場の人に電話をかけ、工場の様子を動画で見せていただきました。豆を砕く機械やチョコレートを練る機械があり、実際にチョコレートを作っている様子を見せてくれました。
こちらの店舗でも、試食をしながら、ショーケースに入ったチョコレートから好きなものを選んで箱詰めしてくれます。今回はバレンタインデーだったので、赤い色のリボンをつけてくれました。
2015年に開業したクラフトチョコレートのお店で、実店舗はありませんが、市内のいくつかのショッピングモールにブースを構えています。また、スーパーやカフェ、ホテルに商品を卸しています。
今回は、アビジャンのカカオ事情についてご紹介しました。次回以降では、コートジボワール国内で行われるカカオセクターの支援活動についてご紹介していきたいと思います。
[1] https://www.gouv.ci/_actualite-article.php?recordID=14084
[2] https://www.barry-callebaut.com/en/group/media/news-stories/barry-callebaut-expands-its-cocoa-processing-capacities-cote-divoire
[i] https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/09/ed3a5dbccb3f0c1f.html