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「社会的連帯経済」の定義が確定される?

 

今年(2022年)5月下旬から6月上旬にかけて開催されるILO(国際労働機関)総会では「社会的連帯経済」についての議論が行われる。総会に先立ち、ウェブサイトに報告書『Decent Work and the Social and Solidarity Economy』が掲載されていたので、本報告書について3つの点をご紹介したい。

まず、この一般討議の目的の一つ目に「社会的連帯経済」という用語の定義を提示すること、とある。あくまでもILOが総会で議論し、その結果を報告書に記載するものではあるが、国際機関による定義として、広く世界的に普及していく可能性がある。本報告書では、下記の通り提案している。

“The social and solidarity economy (SSE) encompasses institutional units with a social or public purpose, engaged in economic activities based on voluntary cooperation, democratic and participatory governance, autonomy and independence, the rules of which prohibit or limit the distribution of profit. SSE units may include cooperatives, associations, mutual societies, foundations, social enterprises, self-help groups and other units operating in accordance with the values and principles of the SSE in the formal and the informal economies.” (社会的連帯経済は、社会的・公共的な目的を有し、自発的な協同、民主的で参加型の運営管理、自治と自立、利益分配を禁止ないし制限する規則に基づいた経済的活動に従事する制度単位(組織体)を包含する。社会的連帯経済組織体とは、協同組合、団体・協会、共済組合、財団、社会的企業、自助組織に加え、公式あるいは非公式経済において社会的連帯経済の価値や原則に則り運営している他の組織を含む。)

ここで気になる点は、ILOが定義を明確にすべきとしている理由のひとつを、現状では統計が取れずに社会的連帯経済の価値が測れない、としていることである。今回定義が合意されると、今後各国に対して、定義にしたがって統計データを集めていくよう提案していくことが予想される。社会的連帯経済が統計によって「可視化」され、「主流化」していくのは良いことかもしれないが、社会的連帯経済の意義は、測れない価値を重視している点や、各地の風土・文化・慣習に根ざした独特な取り組みも含む点と考える筆者にとっては、全面的には賛成しかねるところである。

次に、本報告書は、以下の5つの章からなるが、ILO関係者以外にとっては1章と2章が興味深い箇所ではないかと思う。1章では各国における社会的連帯経済に関する法制度整備事情や、社会的連帯経済の価値・原則の整理、5つの地域別の特徴(アフリカ、アメリカ、アラブ諸国、アジア太平洋、欧州・中央アジア)が記載されている。2章では、雇用、社会的保護、ジェンダー平等といったテーマ別の社会的連帯経済事例が挙げられている。他の社会的連帯経済に関する文献ではあまり見られない国々の事例(例えばニジェール、マリ、キルギスタン、トルコ等)が挙げられているのが本報告書の特徴ともいえる。

第1章 世界における社会的連帯経済

第2章 ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と持続可能な開発への貢献

第3章 ILO構成者(政労使)との関連

第4章 社会的連帯経済に関するILOの活動

第5章 ディーセントワークと社会的連帯経済:課題、機会、今後の方向性

最後に、ソリダリダード・ジャパンの事業内容に関連する点では、2万6千の小規模農家を支援するインドのVruttiという社会的企業や、ブラジルのCOOPERBIOという、やはり小規模農家を組織化して同国初のバイオディーゼルの組合が立ち上がった事例の記述がある点を挙げておきたい。また、日本に関する記述も散見される。「ゆい(結)」と「もやい(催合)」について、労働者協同組合法が成立する25年前から活動していたワーカーズコープ、ILOと日本生活協同組合連合会の共同事業等、ごく簡単にではあるが、各章で日本の事例が触れられている。興味を覚えた方は、下記リンクより報告書をご覧いただければ幸いである。

https://www.ilo.org/ilc/ILCSessions/110/reports/reports-to-the-conference/WCMS_841023/lang--en/index.htm

2022年4月22日

社会的連帯経済リサーチ・フェロー 高須 直子

参考文献:

International Labour Organization (2022). Decent Work and the Social and Solidarity Economy: International Labour Conference 110th Session. ISBN 978-92-2-036622-6