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土壌の健全性から考えるアブラヤシ栽培」:「持続可能なパーム油」ウェビナー第2回開催報告

 

English Information:Report on the webinar (jizoken.org)

リジェネラティブ農業(環境再生型農業)の普及を推進するソリダリダード・ジャパンは、国連が制定した12月5日の「世界土壌デー」に合わせて、12月7日にウェビナー「土壌の健全性から考えるアブラヤシ栽培」を開催しました。

ウェビナーではまず、「土壌の特質と持続可能な土壌管理のあり方:アブラヤシ栽培地を事例に」と題して、藤井一至氏(森林研究・整備機構森林総合研究所 主任研究員)に講演いただき、その後、ソリダリダードのマレーシアとインドネシアの事務局長から、土壌管理を含む両国におけるソリダリダードのアブラヤシ農家に対する支援活動を紹介しました。

なお、今回のウェビナーは録画を以下のサイトから公開しています(資料配付はありません)。

講演①:https://www.youtube.com/watch?v=nJ5FX28ep0A

講演②:https://www.youtube.com/watch?v=lAeG1mXlsEg

ディスカッション:https://www.youtube.com/watch?v=IY-9uo4k4rM

 

当日は同時通訳を使用しましたが、録画はオリジナル音声のみでの公開です。発言の概略を以下にまとめましたので、視聴の補助にお役立てください。

 

【開会の挨拶:佐藤寛ソリダリダード・ジャパン共同代表】

パーム油の生産者、特に小規模農家にとって最大の関心事は自らの生産と生活の持続可能性であり、パーム油の持続可能性を考える際には、認証やトレーサビリティの仕組みだけでなく、農民や生産の現場を含めた産業としてのエコシステム全体の持続可能性を確保する必要がある。そして、生産現場の持続可能性のためには土壌管理が大切であるため、本ウェビナーでは、基調講演で土壌に関する基礎的な知識とアブラヤシ生産地の土壌をめぐる課題、持続的な利用のための実践の試みをお話しいただき、その後、ソリダリダードのマレーシアとインドネシアの代表から農家に対して具体的にどのような支援を行っているかを紹介します。

 

【講演①:土壌の特質と持続可能な土壌管理のあり方:アブラヤシ栽培地を事例に】

藤井一至氏(森林研究・整備機構森林総合研究所 主任研究員)

≪なぜ土か?≫

≪土とは何か?≫

≪アブラヤシ生産地の課題≫

≪課題解決の取り組み≫

 

【講演②:ソリダリダードのリジェネラティブ農業指導:現場からの報告1】

Law Chu Chien (ソリダリダード・マレーシア 事務局長)

≪マレーシアのパーム油生産の課題≫

≪サラワクでのソリダリダードの支援活動≫

≪写真の説明≫

右上:葉の位置から根がある範囲を推定し、施肥する方法の指導。

右下:防護服の適切な使用方法。

農薬や肥料がルールどおり使用されているかの確認。

右下:雨水貯蔵。

上中央:剪定が行き届いた農園。

左下:家鴨・鶏との組み合わせ。

右上:ヤギ、魚、バナナを組み合わせている。

≪最後に≫

 

 

【講演②:ソリダリダードのリジェネラティブ農業指導:現場からの報告2】

Yeni Fitriyanti (ソリダリダード・インドネシア 事務局長)

 

 

【ディスカッション】

吉田:最初に、お互いのスピーチに対してコメントや質問や補足をしていただきたい。

ラオ:藤井さんの研究は私たちが現場で目にしていることと一致する。これらはソリダリダードが農民に研修を行う内容のコアとなる。今後も環境への影響を最低限にする努力をしたい。

(補足情報)
マレーシア政府はアブラヤシ農園の上限を650万haと設定した。それにより森林減少が減った。小規模農家のアブラヤシ栽培地は、森林からの転換ではなく、ゴムやココナッツ、米からの転換だ。我々が支援している農民のうち、森林を伐採してアブラヤシ農園にした割合は4.6%に過ぎない。一番多いのは、1990年代に植えられたもので、一番新しいのは2006年だ。最近は転換に関する規制がとても厳しい。

藤井:ブラジルでは森林を開発する場合でも、20%は森林として維持するルールを設けているがマレーシアはどのように基準でルールが作られているのか。

ラオ:マレーシアでは大規模プランテーション以外にはそのような基準は無い。HCV(保護価値の高い森林)が保護されるべきとされている。また、2021年の林業政策で国土の50%以上を森林として維持する政策を出した。現在、(国全体で)52.8-53%くらいなので、まだ少し開発されるかもしれないが、森林からアブラヤシ園への転換はないだろう。現在、森林として保全されている50%の地域の土地は売却できない。

これに加えて、MSPO2.0では、2019年12月31日以降の森林のアブラヤシ農園への転換は認められていない。

藤井:価格の暴落を避けるという意味では、アブラヤシを作り過ぎないのというのも持続的な経営の一つと考えるが、価格の安定性についての政府の考えは?

ラオ:パーム油は多様な使い方ができる。歯磨き粉、化粧品や、食品加工、さらには、バイオディーゼルの燃料などに使われる。今のマレーシアでの価格は、石油製品の価格に一番影響され、ひまわり油、オリーブ油、大豆油などの価格にも影響される。マレーシアは、パーム油の混合比率を20%とするバイオディーゼル(B20)を導入している。インドネシアでは既に30%のバイオディーゼル(B30)が導入、さらに航空燃料としても検討されているようだ。価格を引き上げる方法は取りうるが、食料安全保障のため買いやすい価格であることも大切だ。高温での使用に耐える良質な食用油だからだ。

今のところ、パーム油の需要は高まる一方なので、需給のバランスによる価格の議論はまだあまり出ていない。価格については石油製品価格と一般市民が購入できる価格という中での課題となっている。

イェニ:非常に勉強になった。藤井さんの講演の内容は、我々の知識を強化してくれる。

農家に対する指導モジュールに加えることを検討したい。

藤井:企業のプランテーションが効率よく収獲を増やすことにも関心があるし、小規模農家のアグロフォレストリーが土壌改善に役に立つのかにも関心があり、研究をしている。先ほど見せていただいた動画のホームガーデンも実際に土壌がどう変わっているのかをデータとして追跡したり、やっていることの価値を数字でも証明していくことが必要だ。今、特にリジェネラティブ農業はいくつかの認証はあるけれど、様々な価値が混在していて、モニタリングしている段階だろう。土壌改善や土壌保全がどの程度の経済価値があることを出していくのが社会的認知度を上げていくために大切ではないか。

吉田:議論が深まって興味深い。これが実際のパートナーシップにつながればいいと思いながら聴いていた。次に、それぞれの立場からサステナビリティとは何かを話してほしい。

藤井:来年ジャカルタから東カリマンタンのヌサントラに首都移転してくる。急ピッチで建設が進んでいるが、その建設の様子を見ると、山を削り、土を垂れ流すという様子で土の研究者としてはショックを受ける。しかし、それはかつての日本の姿だ。経済発展してきて、ようやく土も重要だというようになった。暮らしの豊かさがあってこそ、言えることもあるが、熱帯雨林にはインドネシアの持続可能な発展のための多くのリソースがあると思っている。どれだけ熱帯雨林を残しておけば、最終的に後悔しないかといったものがあるといいのでは。アブラヤシ、ユーカリやドラゴンフルーツは(ほかの植物が育たないほどの)貧しい土壌でも育つが、油断していると、(土壌が劣化しすぎて)何も生えなくなるのではないかと心配している。

ラオ:マレーシアの土壌の大部分はアルティソイル(強風化赤黄色土)とオキシソイルだ。政府はコメやココナッツ生産のための肥料に多額の補助をしているが、マレーシア産のコメの価格はタイからの輸入米よりも高い。高値で取引されるドリアン栽培に人気が出ているが収穫までに10年かかることや、洪水への弱さなどの課題がある。アブラヤシは農民にとっては安全な作物として選ばれていることも認識する必要がある。忘れてはいけない。

EUDR(EU森林伐採規制)など国外からのサステナビリティに関する要求について話を戻す。ソリダリダードは、生産者に対してハードルを上げるのではなく、生産者の底上げをすることを目指している。EUDRやEUコミッション、CPOPC(アブラヤシ生産国会議)と緊密に連携してサステナビリティ・アジェンダを追求しているが、農民が脆弱にならない道を目指している。

パーム油のバリューチェーン全体が生み出す経済的価値の中で、小売や日用消費財メーカーが多くの割合を占めている一方で小規模農家のシェアは6.1%しかない。各サブセクターが得ている利益で比較すると、小規模農家のシェアはほぼ0%である。これは藤井さんが言った通りだ。サステナビリティのための負担はサプライチェーンのすべてのステイクホルダーで分担されるべきだ。私たちの経験では、農民の9割は環境にやさしい持続的な農業に変えたいと考えているが、指導や支援を必要としている。先住民の指導には英語ではなく彼らの言語(ダヤック、イバン、ダユ)でのテキストが必要だが、資金が必要であり、支援が必要だ。

エディ: 2000年から多くの会社がサステナビリティの方針を打ち出している。

2007年からは責任ある調達ポリシー、これは自分たちの農園だけでなく、彼らのサプライヤーである小規模農家がグローバルな基準を順守しなければならない。ソリダリダードは、どの農園かをトレースしたり、GAPを通じて農園管理の能力向上をサポートしたり、果房からの有機肥料づくり等も支援している。

こうした活動は企業努力をサポートするものであり、すでに協力が進んでいる。

吉田:最後に一言ずつメッセージをお願いします。

藤井:今日は皆さんありがとうございました。

ラオ:繰り返しになりますが、産業の支援がとても重要です。マレーシアやインドネシアに来る機会があれば、喜んで実際に活動している現場につなぎ、必要な情報を提供しますので、ご連絡ください。

イェニ:この機会をいただきありがとうございました。この大きな産業の後ろで小規模な農家が能力の問題だけでなく、規制などの影響をあって、サステナビリティに向けて日々奮闘していることを知っていただけたら幸いです。

また、藤井さんからいただいた情報は研修モジュールにも組み込ませてもらいます。

最後に、パーム油は健康によく、インドネシアでは90%の世帯が料理に使っています。

皆さんの支援が必要です。ありがとうございました。