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「持続可能なパーム油」ウェビナーの実施報告

English Information: Report on the webinar "Sustainable Palm Oil: Considering Farmers' Livelihoods" (jizoken.org)

2023年9月4日にウェビナー「持続可能なパーム油 ~持続可能なパーム油の供給と農家の暮らしについて考える」を開催しました。世界で最も生産されている植物油であるパーム油への世界的な需要が高まる一方で、原料であるアブラヤシ栽培による環境破壊や人権問題への関心が高まっており、先進国を中心とした企業は、持続可能なパーム油のサプライチェーンの構築に取り組んでいます。一方で、アブラヤシ栽培の多くを担う小規模農家にとっては、環境や人権だけではなく、自らの生活水準の向上も持続可能性において重要な要素です。本セミナーでは持続可能なパーム油に関する認証制度の概要とともにインドネシアとマレーシアのアブラヤシ栽培の実情、欧州企業による現地での取り組み、ソリダリダードの小規模農家支援などの取組みをご紹介しました。

 

民間認証と政府認証の補完的役割

ウェビナーでは、最初にジェトロ・アジア経済研究所の道田悦代氏からパーム油生産がインドネシアとマレーシアで雇用創出や経済発展に貢献する一方で、環境・社会面での持続可能性の課題を抱えていることなどパーム油の持続可能性をめぐる議論の全体像について紹介頂きました。

持続可能性の課題への取り組みとして、消費市場である欧州で民間の主導によってRSPO( Roundtable on Sustainable Palm Oil)認証制度が策定されましたが、小規模農家にとっては必ずしも導入は容易ではないことが指摘されてきました。そこで、2大生産国であるインドネシア、マレーシアではそれぞれ、政府が主導し、ISPO(インドネシア)、MSPO(マレーシア)が策定されました。

RSPOは先進国市場をターゲットにして、非認証商品との差別化を図る特徴をもっており、非認証商品は市場から排除される場合もあります。これに対して、ISPO・MSPOは、小規模農家も含めたすべての生産者への参加を義務付けた包摂性を特徴としています。しかし、ISPO・MSPOでも、独立小規模農家への普及は道半ばであり、さらなる取り組みが必要です。民間認証のRSPOと政府認証のISPO・MSPOは補完的な役割を果たすと考えられ、パーム油の生産国では認証間の協力の動きも出ています。

欧州の新たな動きとしては2023年に欧州連合においてEUDR(EU Deforestation Free Products Regulation, 森林デューデリジェンス規則) が施行され、パーム油、大豆、畜産を含む農産物は、サプライチェーンを通じて森林破壊に関与していないかデューデリジェンス(DD)を行うことが義務付けられました。

認証制度の利用は否定しないものの、リスク管理は各企業が責任をもって行わなければなりません。ISPO・MSPOの普及をすすめると同時に、現地に通じたNGOなどとの協力が重要になってくると考えられます。

 

ドイツのヘンケル社による小規模農家の支援事例

次に、ドイツのヘンケル社のサステナビリティ担当部長のMarjon Stamsnijder氏からのビデオメッセージが上映されました。同社のサステナビリティ戦略ではパーム油調達に関してNDPE(No Deforestation, No Peat, No Exploitation = 森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ)への完全準拠と「100%責任ある調達」だけでなく、「小規模農家の生活水準の向上と自然保護」にランドスケープレベルでの取り組むことが定められています。

インドネシアでは、2015 年から西カリマンタンでソリダリダード小規模農家支援活動に協力しており、2015 ~19 年に、6000戸以上の農家に農法改善の指導や研修を行い、農家組合の設立なども支援しました。

さらに2022 年以降は、農家が新しい市場に参入するための支援や、荒廃した森林や農地の回復プロジェクトに着手しました。2023 年の活動では、6月までにサンガウ県とランダック県で16万戸の農家を対象に、気候変動に適応した農業の実践について研修を行いました。また、サンガウ県の12.7万戸の農家が、土地の所有権を登録し、森林保護区域や、他人の私有地でないことを証明するために、土地の区画のマッピングを支援しました(この証明がないとRSPO認証は取得できないため)。

 

小規模農家から見たアブラヤシ栽培と暮らしの持続可能性

続いて、「持続可能なサプライチェーン研究所」の吉田秀美氏が、現地調査の写真や動画を交えて、インドネシアとマレーシアの小規模農家の農作業の様子や農地の使い方、暮らしの様子を紹介しました。アブラヤシ生産者であっても、国や地域によって課題は異なります。インドネシア・西カリマンタンや東マレーシア(サバ州・サラワク州)では、生産性が低く、収入を増やすために農地を拡大して、森林減少につながる可能性があります。

RSPO認証を取得した農家へのインタビューでは、ソリダリダードの技術指導で生産性が上がり、認証を取得したことでクレジット収入が得られるようになったため、農家組合の組合員の認証取得を推進する予定だとのことです。

ただ、小規模農家全体に占めるRSPO認証取得者の農地面積はごくわずかです。条件に恵まれた地域や農家以外はなかなか認証取得できていないのが現状です。

また、企業がRSPO認証油の調達率を100%にしただけで、生産地のサステナビリティの課題は解決されるのか、といった問題提起がされました。

 

ソリダリダードの取り組み

最後にソリダリダード・ジャパンの事務局長の楊殿閣が、アジアでの活動を中心に、ソリダリダードが行っている支援の内容について紹介しました。

アジアにおけるアドボカシー活動としては、インドやパキスタンなどパーム油の輸入国の調達企業などから構成するAPOA(Asia Palm Oil Alliance)というプラットフォームを設立し、持続可能なパーム油に関する情報交換を促しています。日本企業のAPOAへの参加も期待しています。パーム油生産国の間ではCPOPC (Council of Palm Oil Producing Countries )が設立されており、ソリダリダード・アジアはCPOPCの下に2つのジョイント・ワーキング・グループ(インドネシアのワーキング・グループとマレーシアのワーキング・グループ)に参加しています。

小規模農家へ支援としては、農法や農園管理の研修、組合設立・運営や生計向上の支援を行っています。生産性は低い農家の場合適切な農法を指導するだけで生産性が1.5倍になることもあります。例えば、肥料を樹幹の周りに撒いてしまうとほとんど効果がありません。指導では、葉の生え方を目安に根の先端部分がどこにあるかを推測し、そこに肥料をまけば、養分は無駄なく吸収され雨で流出してしまうことも防げることを伝えています。

このように、ソリダリダードは現地の農家に密着した活動と政府機関との協働活動の双方に取り組み、パーム油のサプライチェーンをより持続可能なものに変革し、自然とバランスの取れた包摂的な発展を目指しています。

 

アブラヤシ生産の持続性とは何なのか

 質疑応答の時間はソリダリダード・ジャパン共同代表の佐藤寛がモデレーターを務めました。視聴者からは「民間認証は排除につながるというのは言い過ぎでは?」という意見が出る一方、「認証制度は新規参入障壁に見える」という意見もありました。

後に登壇者がそれぞれの視点からアブラヤシ生産の持続性についての見解を語りました。RSPO認証+αのアプローチ(生産国の法律順守や生産者への直接支援など)が必要だという点で一致しました。

 

視聴者からのコメントや感想

ダイジェスト版講演動画(申込者対象、10月4日までアーカイブ配信):

https://youtu.be/rdCcPkfitxA?si=PId9VBdMUWKoFBUZ

ディスカッション・質疑応答動画(申込者対象、10月4日までアーカイブ配信):

https://youtu.be/OZRkPKoAN4c?si=E9LF-3s94oaTwQKZ