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チョコレートの持続可能性を考える

甘くておいしいチョコレート。スーパーやコンビニなど、我々の身近にあるチョコレートですが、その原料となるカカオの生産現場では、生産者の貧困と児童労働、森林破壊という、持続可能性を脅かす問題が指摘されています。

 

チョコレートの歴史

チョコレートの歴史が、非常に長いことを知っていますか?そして、その長い歴史の中で、チョコレートは飲み物から食べ物へ、高価で貴重な食べ物からより一般的な食べ物へと大きく変わっていきました。しかし、カカオ生産者の苦境の上に消費が成り立っているという点では、残念ながら大きな変化はもたらされていません。

チョコレートの原料となるカカオは、紀元前1,200年頃からメソアメリカ地域(メキシコ・中央アメリカ地域)で栽培され、挽いたカカオにトウモロコシの粉やスパイスを混ぜた飲み物「カカワトル」は特権階級の人々に親しまれていました。当時、カカオは、「カカワトル」としてだけでなく、神への供え物や通貨として利用されるほど、貴重で神聖なものでした。それは、後にカカオの学名が、ギリシャ語で「神様の食べ物」を意味するテオブロマと名付けられたことからもわかります。その後、大航海時代に「カカワトル」がヨーロッパに伝わり、砂糖を加え、お湯で溶かすことで、甘く飲みやすくなり、飲むチョコレートの形に変化しますが、依然として高価なものであったため、上流階級の人のみが楽しめるものでした。そして、植民地時代にはいると、砂糖やコーヒーなどの他の一次産品と同様に、ヨーロッパ諸国は、カカオ生産に適したラテンアメリカやアフリカなどの植民地で、奴隷を用いて安価にカカオを作り、それをヨーロッパで消費するという仕組みを構築することで、カカオがより一般的なものとなっていきます。そして、いくつかの加工技術の開発により、1847年頃には食べるチョコレートが登場し、現在のチョコレートのように多くの人々が口にすることができるより身近な食べ物となりました。

カカオ生産国と消費国の関係

このように、貴重な食べ物だったチョコレートが、身近な食べ物に変化していく中で、実は、変わらないものがあります。それは、カカオの生産と消費の不平等な関係です。下記のCacao Barometer2020の図が示す通り、カカオは、「カカオベルト」と呼ばれる、赤道を挟んで南北20度の地域で行われていますが、その消費の多くは、今でもヨーロッパやアメリカ、そして日本など、先進国に偏っており、植民地時代からその構図はあまり変わっていません。

出典:Cacao Barometer 2020

カカオ生産者―貧困と児童労働

また、植民地時代は奴隷がカカオ生産を担っていましたが、現在もカカオ生産者のおかれている立場は厳しく、貧困や児童労働の問題が指摘されています。カカオの原産地は、中南米地域ですが、現在は、西アフリカが生産の中心です。国際ココア機関(ICCO)が2022年に発表した下記の統計によると、コートジボワール、ガーナ、カメルーン、ナイジェリアを中心としたアフリカが、世界のカカオ生産の約74%を占めています。

出典:ICCO,  Quarterly Bulletin of Cocoa Statistics, Vol.XLVIII, No3, Cocoa Year 2021/22

これらの国のカカオ農家の多くは、小規模な、家族経営の農家で、貧困状態にあると指摘されています。Fairtrade Internationalが2018年に発表した調査“Cocoa Farmer Income The household income of cocoa farmers in Cote d‘Ivoire and Strategies for improvementによると、コートジボワールのカカオ農家の平均的な収入は、2,707ドル/年で、生活に必要な最低限の収入とされる7,318ドル/年の約37%しか稼いでおらず、半分以上は貧困ライン以下の生活を送っています。また、カカオ産業の持続可能性の問題に焦点を当てた報告書Cocoa Barometer 2020によると、ガーナのカカオ農家のうち、生活に必要な最低限の収入を得ているのは9.4%で、90%以上は貧困状態にあります。

カカオ生産者の貧困に関連し、生産現場では児童労働の問題も指摘されています。児童労働とは、国際労働機関(ILO)によると、子供の尊厳や可能性を奪い、教育の機会を妨げ、身体的、精神的成長の妨げとなるような危険な労働と定義されます。International Cocoa Initiativeによると、コートジボワールとガーナでは、156万人の子供がカカオ生産に携わっています。そして、その多くが、危険な道具や農薬の使用、重い荷物を運ぶなど、最悪の形態の児童労働と呼ばれる危険なものです。また、コートジボワールとガーナの児童労働の約1%が、個人の意思に反し、脅迫的な環境において労働に従事させられている強制労働の状況にある可能性も指摘されています。

貧困の原因―低く抑えられる買取価格

カカオ生産者の貧困の原因にはいくつかの理由がありますが、カカオ豆の買取価格の低さは大きな原因と考えられています。カカオ豆の価格は、「コーヒーの持続可能性を考える(1)」で指摘したのと同様に、先物取引市場により決定され、実際の生産コストが考慮されず、投機目的の売買に大きな影響を受けます。そして、下記のグラフとの通り、その価格は下降傾向にあります。

出典:Cocoa Barometer 2020

Cocoa Barometer 2020によると、コートジボワールにおいて、生活に必要な収入を得るためには、買取価格は3166ドル/トン、ガーナでは、3116ドル/トン必要だと考えられていますが、実際の買取価格は、コートジボワールが1804ドル/トン、ガーナが1810ドル/トンとなっています。このようにカカオ生産者は、現在においても、販売価格を決定する力を持たず、不当に低い価格でカカオを販売せざるを得ない状況にあります。

カカオ生産と森林破壊

 近年、生産者の貧困や児童労働と共に、カカオ生産の拡大による森林破壊が問題になっています。国際環境NGO Mighty Earthの報告書によると、2019年からの3年間で、コートジボワールでは、19,421ヘクタール、ガーナで39,497ヘクタールの森林が失われています。そして、その主要な要因は、カカオ生産の拡大によるものだと指摘されています。この背景には、より多くの収入を得るために、農民が無計画にカカオ生産を拡大していることが挙げられます。森林破壊は、生物多様性の喪失や、気候変動への悪影響など、長期的にはカカオの生産に悪影響を及ぼす可能性があり、対応が求められます。

まとめ

 長い歴史の中で様々な変化を遂げたカカオが、生産者の苦境の上に消費が成り立っているという点においては、残念ながらいまだに大きな変化は見られません。そして、そのことにより、無計画に生産地が拡大され、森林破壊も進んでいます。もし、今、私たちが食べているチョコレートが、カカオ生産者や児童労働に従事する子供たち、そして地球環境の犠牲の上に成り立っているとしたら、それは本当にチョコレートといえるのでしょうか?そして、それは果たして、持続可能なものなのでしょうか?

 2015年に策定されたSustainable Development Goals (SDGs)では、目標12として「つかう責任、つくる責任」を掲げ、持続可能な消費と生産のバランスの構築を目指しています。また、近年、「ビジネスと人権」への関心も高まりを見せています。これまで、ビジネスにおける持続可能性の問題の多くは、地球環境に焦点を当てたものが多い傾向にありましたが、2011年に国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」が策定されて以降、ビジネスにおける人権問題への関心が高まっています。このような流れを受け、カカオ生産の問題に対する取り組みも強化されています。

次回は、各国政府、チョコレート企業、消費者、市民社会の取り組みを紹介し、消費する立場の私たちができることについて考えていきたいと思います。

2022/12/16

ライター:橘 欣子