ニュース・お役立ち情報

コーヒーの持続可能性について考える(4) 

「コーヒーの持続可能性を考える(3)」では、コーヒーの持続可能性を高めるための取り組みとして、認証コーヒーについて紹介しました。今回は、企業独自の取り組みとコーヒー産業全体の取り組み、そしてSolidaridadの活動を紹介します。

企業独自の取り組み

これまで、企業が行う持続可能性に関する取り組みで代表的なものといえば、自社製品の一部に認証コーヒーを取り入れるというものでした。しかし、近年、企業が自ら持続可能な基準を設け、商品全体の調達をより持続可能なものにする動きがあります。ここでは、スターバックスとカプセルコーヒーでおなじみのネスレネスプレッソの取り組みを見てみましょう。

スターバックスの取り組み

スターバックスは2004年より、自社独自の持続可能な調達プログラムであるC.A.F.E(Coffee and Farmer Equity)プラクティスと、ファーマーズサポートセンターを通じた農家支援を行い、持続可能なコーヒー生産の実現に取り組んでいます。C.A.F.Eプラクティスは、スターバックス社と環境系国際NGOコンサベーション・インターナショナルが共同で開発した独自の調達プログラムです。経済的透明性、社会的責任、環境面での取り組みに関して独自の指標を定め、第三者機関が評価しています。また、前提条件として、スターバックスの品質基準を満たしていることが掲げられています。それぞれの詳しい指標はC.A.F.E Practice Generic Scorecardで確認することができます。

同社のGlobal Environmental and Social Impact Report 2020によると、2015年から2019年の間、自社で販売するコーヒーの99%がCAFÉプラクティスの基準に沿って倫理的に購入されたと報告されています。

また、スターバックスは、C.A.F.Eプラクティスの推進と共に、それを支援するツールとして生産地に農学者が常駐するファーマー・サポート・センターを設立し、高品質な豆の栽培のための技術支援やC.A.F.Eプラクティスの実践を支援しています。2004年に初めてファーマーズサポートセンターがコスタリカに設立されて以降、現在までにグアテマラ(2006年)、ルワンダ(2009年)、タンザニア(2011年)、コロンビア(2012年)、中国(2012年)、エチオピア(2014年)、インドネシア(2015年)、メキシコ(2016年)、ブラジル(2021年)と10ヶ所に、ファーマー・サポート・センターが設立されています。

このようにスターバックスは、C.A.F.E.プラクティスの推進とファーマー・サポートセンターを通じた農家支援を通じて、自社で定めた基準に沿って、コーヒーの持続可能性を高める取り組みを行っています。

ネスレネスプレッソ社の取り組み

ネスレネスプレッソは、2003年より、レインフォレスト・アライアンスとの連携によるAAAサステナブルクオリティ(持続可能品質)プログラムを実施しています。このプログラムは、ネスレネスプレッソが求める最高品質のコーヒー豆を安定的に供給することを目指し、品質、生産性、社会的持続可能性の3つの柱からなっています。それぞれの基準の詳細は、The Tool for The Assessment of Sustainable Qualityに記載されています。このプログラムでは、農家に対する技術トレーニング、インフラ整備、プレミアムの支払いなどが含まれています。The Positive Cup Creating Shared Value Report 2014-2020 Achievementsによると、ネスレネスプレッソのコーヒーの93%は同プログラムを通じて調達されています。ネスレネスプレッソもスターバックス社と同様に、現地で農学者がこのプログラムの実施を支援しています。

これら企業独自の取り組みに共通しているのは、どちらもNGOとのパートナーシップを築き、自社の調達基準を定めている点です。スターバックスはコンサベーション・インターナショナルと、ネスレネスプレッソはレインフォレスト・アライアンスと共同で基準を定めています。パートナーシップを築くことで、より透明性の高い基準を作成する狙いがあるからだと考えられます。スターバックスもネスプレッソの親会社であるネスレも、これまで原料の調達の方法について、その持続可能性について批判を受けてきたこともあり、NGOとのパートナーシップのもと、自社の調達基準を定めています。

このように企業が独自の基準を設け、持続可能性の問題に取り組む背景には、社会的なニーズにこたえるという受動的な理由だけでなく、企業もその必要性に迫られているという側面があります。コーヒーの持続可能性が脅かされる中で、企業が長期的に安定的に品質の高いコーヒーを入手するためには、生産者との長期的で良好な関係を構築し、持続可能な調達ルートを確保する必要があります。今後、より多くの企業がこのような取り組みを開始する可能性も考えられます。

業界全体としての取り組み

各社が独自の取り組みを進める中で、企業だけでなく、政府、NGOなどコーヒー産業全体として、持続可能性を高めるための取り組みも進められています。ここでは代表的な取り組みとして、Sustainable Coffee ChallengeとGlobal Coffee Platformについてみてみましょう。

Sustainable Coffee Challenge

2015年に、コンサベーションインターナショナルとスターバックスがC.A.F.Eプラクティスの経験を基に、Sustainbale Coffee Challengeの設立を発表しました。Sustainable Coffee Challenge は、コーヒーを世界初の持続可能な農産品とするという一つの目標に対し、コーヒー関連企業だけでなく、生産者、政府、関係NGO、国際機関など165の団体が参加するイニシアティブです。参加団体が自らのそれぞれが持続可能なコーヒー産業達成のための目標を定め、取り組みを行っています。

Global Coffee Platform

2016年、コーヒーの持続可能性を高めるためのいくつかのイニシアティブが統合され、多様なステークホルダーが参加するGlobal Coffee Platform(GCP) が設立されました。Global Coffee Platformでは、コーヒー産業全体の持続可能性を高めるための指針としてCoffee Sustainability Reference Codeを作成しています。また、GCPでは各国でCountry Platformを形成し、コーヒー関係者が一堂に会し、その国のコーヒー産業が抱える課題の解決に取り組んでいます

日本ではSustainable Coffee ChallengeもGlobal Coffee Platformも知名度が低く、数社が参加しているのみですが、より多くの企業が参加し、コーヒーの持続可能性を高める取り組みがさらに進むことが期待されます。

では、最後にSolidaridadの活動についてご紹介します。

Solidaridadの活動

Solidaridadは、1969年にオランダで設立されたNGOで、設立当初は中南米の小農支援を行っていました。その後、1988年にSolidaridadの創設者であるニコ・ローチェンとフランツ牧師が、メキシコの小規模農家からコーヒー豆を買い付け、「マックス・ハベラー」というラベルを付けて販売しました。この「マックス・ハベラー」の活動は、のちに国際フェアトレード認証ラベルへと発展します。しかし、フェアトレードによる市場へのインパクトが限定的であるとの問題意識が芽生えます。1990年代後半から大きな活動方針転換があり、現在では、コーヒーを含む主要13品目に関し、小農支援とともに、生産者から消費者に至るサプライチェーン全体がより持続可能になることを目的に活動を展開しています。ここでは、コーヒーに関するSolidaridadの代表的な取り組みを紹介します。

1つ目は、生産者に対する支援です。近年では、気候変動の影響の少ない品種を使った「the coffee of the future未来のコーヒー」の推進やフェアデータと呼ばれるデジタル技術を活用した生産者支援を行っています。「未来のコーヒー」とは、森林を保護し、農薬の利用を減らし、日陰栽培で、気候変動の影響を受けにくい特徴があります。Solidaridadの支援により、中南米では10,000以上の農家が「未来のコーヒー」を生産しています。また、デジタルデータを活用し、生産者の生産性やコストなどをモニタリングし、生産者の発展に役立てています。

 2つ目は、コーヒーセクターの連携促進です。Solidaridadは2013年にコロンビアで、Sustainable Trade Platformを設立し、コーヒーセクターの連携強化を図っています。近年では、ケニア、ホンジュラス、ニカラグアでも同様のプラットフォームを立ち上げ、各国のコーヒーセクターの改革に取り組んでいます。上記に挙げたGlobal Coffee Platform とSustainable Coffee Challengeの設立も支援し、加盟団体として活動を行っています。

3つ目は、コーヒーの持続可能性に関する現状分析と提言の発表です。Solidaridadは、他のNGOと共同でCoffee Barometerという報告書を2年に一度作成し、コーヒーセクターの持続可能性に関する現状分析を行い、輸入業者に対して透明性を確保すること、利益が一部のアクターに集中しないこと、生産者や労働者が取り残されないよう働きかけています。

まとめ

 これまで、コーヒーの持続可能性について、4回にわたり、その課題や課題解決のためのさまざまな取り組みを紹介してきました。消費者がこれからもおいしいコーヒーを飲むためには、生産者や地球環境に配慮した方法でコーヒーが生産され、消費者まで届けられることが求められています。消費者である私たちも、自分のコーヒーがどのように生産され、自分の手元まで来ているかを考え、必要なアクションをとることが求められます。

 Solidaridadでは、コーヒーのサプライチェーンをより持続可能なものにするために、生産者から消費者まで様々な活動を行っています。Solidaridadの活動にご関心のある方は、こちらまでご連絡ください。

2021/12/18

ライター:橘 欣子