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コーヒーの持続可能性について考える(3) 

「コーヒーの持続可能性について考える(1)」「コーヒーの持続可能性について考える(2)」で、生産者の貧困問題や気候変動による生産量の減少や質の低下など、コーヒーの持続可能性を脅かす問題について考えてきました。そこで、今回のコラムからは、この問題の改善に向けての対応策として、コーヒーの持続可能性を高めるための取り組みについて紹介していきたいと思います。

近年、コーヒーが抱える問題に対して、生産者、企業、NGOや政府などが様々な取り組みを行っています。今回は、持続可能性に配慮したコーヒーを作り、販売する仕組みの一つである認証コーヒーについてみてみましょう。認証コーヒーとは、認証機関が独自に定めた基準に沿って、持続可能性に配慮したコーヒーを認証し、そのコーヒーに「特別なラベル」を付ける仕組みです。「特別なラベル」を付けたコーヒーは、認証コーヒーとしてスーパーや喫茶店で販売されます。一般的に、生産者とサプライヤーは、「特別なラベル」を取得・使用するために、認証費やライセンス料と呼ばれる経費を認証機関に対して支払います。そして、数年ごとに監査を受け、ラベルの使用権を更新していきます。日本でも2005年ごろから認証コーヒーの取り扱いが増え、一般的なスーパーでも販売されています。

日本のスーパーやカフェで見かける代表的な認証ラベルとして、国際フェアトレード認証ラベル、レインフォレスト・アライアンス、バードフレンドリープログラムが挙げられます。それぞれの特徴を見てみましょう。

国際フェアトレード認証ラベル

国際フェアトレード認証ラベルとは、国際フェアトレードラベル機構(Fairtrade International)が、立場の弱い生産者の持続可能な発展に資する方法で取引された商品を認証し、上記のラベルを付与するものです。1988年にオランダで、Solidaridaの創設者であるニコ・ローチェンとフランツ神父がメキシコで買い付けたコーヒー豆に、マックスハベラーというオランダの有名な英雄にちなんだラベルを付けて販売したことが始まりといわれています。現在では、コーヒーの他に、紅茶、バナナ、砂糖、カカオ、コットンなど、様々な商品を取り扱っています。日本では、特定非営利活動法人フェアトレード・ラベル・ジャパン(FLJ)が認証を行っています。

国際フェアトレード認証ラベルは、開発途上国の生産者や労働者の持続可能な発展を目指すために独自に策定された国際フェアトレード基準に沿って運用されています。その原則は、経済的、社会的、環境的基準に分けられています。

表1 国際フェアトレード基準の原則

経済的基準

社会的基準

環境的基準

フェアトレード最低価格の保証
フェアトレード・プレミアムの支払い
長期的な取引の促進
必要に応じた前払いの保証など

安全な労働環境
民主的な運営
差別の禁止
児童労働・強制労働の禁止など

農薬・薬品の使用削減と適正使用
有機栽培の奨励
土壌・水源・生物多様性の保全
遺伝子組み換え品の禁止など

出典:https://www.fairtrade-jp.org/about_fairtrade/intl_standard.php

この基準の特徴は、フェアトレード最低価格の保証とフェアトレードプレミアムの支払いです。フェアトレード最低価格とは、経済的・社会的・環境的に持続可能な生産と生活を支える価格で、品目ごとに最低価格が設定されています。下記の市場価格とフェアトレード価格の比較を示したグラフ1を見てみましょう。市場価格が暴落した場合は、最低取引価格が維持され、市場価格が高騰した場合はそれに乗じてフェアトレードの取引価格も上昇しています。つまり、フェアトレード最低価格は、市場価格が暴落した際のセーフティーネットとして機能する仕組みになっています。

グラフ1 市場価額とフェアトレード価格の比較(アラビカコーヒー:1989-2013)

出典:https://www.fairtrade-jp.org/about_fairtrade/intl_standard.php

一方、フェアトレードプレミアムとは、組合や地域の経済的・社会的・環境的開発のための資金で、 コーヒーの場合、1ポンド当たり20セントが取引価格に上乗せされ、生産者組合に支払われます。その用途は組合によって民主的に決められます。代表的な用途に、生産に必要な機器の購入、品質向上のためのトレーニング、地域の学校や病院の整備などがあります。国際フェアトレードラベル機構が発表した“Top 7 Products Dashboard”によると、2019年には全世界のコーヒー生産者組合に対して、合計85,407,248.17ユーロがフェアトレードプレミアムとして支払われました。

このように国際フェアトレード認証ラベルでは、開発途上国の生産者の持続可能な発展に資することに重点を置き、フェアトレード最低価格保証とフェアトレードプレミアムを特徴とした認証を行っています。

レインフォレスト・アライアンス認証

レインフォレスト・アライアンス認証は、国際的な非営利環境保護団体レインフォレスト・アライアンスが行うプログラムで、「持続可能な農業基準」にそって認証を受けた商品に、下記のカエルマークが付与されます。レインフォレスト・アライアンスは、2018年にオランダの認証プログラムであるUTZと合併し、2020年に「2020認証プログラム」と新しい認証マークを発表しました。

 

左:旧マーク、右:新マーク

「2020認証プログラム」では、農場向けとサプライチェーン向けの2つからなる「持続可能な農業基準」にそって認証が行われます。この認証プログラムでは、「生計」、「人権」、「気候」、「森林と生物多様性」という4つのテーマを掲げています。

「2020認証プログラム」の大きな特徴は、サステナビリティ差額(SD: Sustainability Differencial)とサステナビリティ投資(SI: Sustainability Investment) という仕組みの導入です。運営団体の「サステナビリティ差額とサステナビリティ投資―コーヒー部門手引き」によると、サステナビリティ差額とは、市場価格や品質差などの差額に加えて、認証生産者に義務的に支払われる現金のことを指しています。サステナビリティ差額の具体的な金額は、生産者とバイヤーによる交渉で決定されます。一方、サステナビリティ投資とは、持続可能な農業基準を満たすことを支援するため、バイヤーから認証生産者に支払われる現金投資または現物投資を指しています。もともと、UTZ認証にはプレミアム(市場価格に上乗せした金額)の支払いが義務付けられていましたが、レインフォレスト・アライアンスの認証では、一般的にプレミアム価格が支払われていたものの、要件としては明記されていませんでした。そこで、「2020認証プログラム」では、持続可能な生産にかかる費用と成果をサプライチェーン全体でより公平に共有することを目的として、サステナビリティ差額とサステナビリティ投資を導入しています。

「2020認証プログラム」は、2021年7月から本格的に運用が開始されており、どのような成果が出るのか注目されています。

バードフレンドリーコーヒー認証

バードフレンドリーコーヒー認証は、アメリカのスミソニアン渡り鳥センター行う認証プログラムです。この認証はその名前が示す通り、渡り鳥の生息地となる自然林の保護に大きな重点を置いており、昔ながらの木陰でコーヒーを育てるシェードグロウン栽培(日陰栽培)を推進しています。

認証基準は2つあり、1つは有機栽培であること、そして2つ目は日陰栽培に関するもので、シェードツリーが農園の40%を覆っていること、11種類以上の樹種で構成され、その60%が12メートル以上の中木、20%が15メートル以上の大木、20%が小木であることです。認証を受けた農園は、有機栽培や日陰栽培の推進により、通常の市場価格よりも高い価格でコーヒーを売ることが可能となり、森林保全とともに生産者の生活を支援できると考えられています。また、収益の一部は、スミソニアン渡り鳥センターを通じて、渡り鳥の研究、調査、保護活動に使われています。

以上、日本でも商品が販売されている代表的な3つの認証ラベルの概要について説明しました。各プログラムとも経済、社会、環境の3つの分野を中心に基準を設けていますが、それぞれの認証組織が考える重点分野の違いにより、少しずつ異なる仕組みになっています。

認証コーヒーを取り巻く現状

認証コーヒーは、通常のコーヒーとの差別化を図り、持続可能性に配慮したコーヒー生産を促進することを目指していますが、実際の生産量と認証コーヒーとして販売される量に大きな差があるという課題があります。例えば、国際フェアトレード機構が発表した“Top 7 Products Dashboard”によると、2019年の認証コーヒーの生産量は、824,404.28トンであったのに対し、実際にフェアトレード認証コーヒーとして販売された量は、218,161.84トンでした。同様に、レインフォレスト・アライアンスの“Coffee Certification Data Report 2020”によると、生産量は669,698トンであったのに対して、認証コーヒーとして販売された量は393,550トンでした。生産者にとって認証の取得や維持は大きなコストがかかるものである一方、その多くが通常のコーヒー豆として販売されていては認証取得によるメリットを多くの生産者が実感するのは難しいかもしれません。

認証コーヒーを通じて、持続可能なコーヒーの生産を実現するためには、消費側での認知度が向上し、認証コーヒーを選ぶ消費者が増え、その販売量が増えることが求められています。その際に課題となっているのが、価格と質です。認証コーヒーは通常のコーヒーに比べ価格が高い傾向にあります。通常のコーヒーはなぜ安いのか、認証コーヒーがなぜ高いのか、その理由を消費者が理解し、納得し、購入するかがカギとなります。一方、認証コーヒーは質が低いという考えを持つ人もいます。しかし、認証コーヒー市場の拡大とともに、競争も激しくなり、認証機関も生産者も質の向上に力を入れています。認証コーヒー=質が悪いというイメージにとらわれることなく、まずは、いろいろな認証コーヒーの仕組みを知り、自分の好みの認証コーヒーを探す消費者が増えることが、認証コーヒーのさらなる拡大につながるのではないでしょうか。今回のコラムでは、持続可能性に配慮したコーヒーを目指す取り組みの一つの例として、認証コーヒーについて考えてみました。次回のコラムでは、認証コーヒーとは別のアプローチとして、企業が独自で行う取り組みやコーヒー業界全体の取り組みについて取り上げたいと思います。

2021/10/15

ライター:橘 欣子