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チョコレートの持続可能性を考える④ ACCEL Africa(ILO)プロジェクトの取り組み

 

カカオの生産量が世界一を誇るコートジボワールでは、企業や国際援助機関、NGOなど様々なアクターが、カカオの持続可能性を高めるための活動を行っています。そこで、今回は、International Labour Organization (ILO:国際労働機関)が実施する、Accelerating action for the elimination of child labour in supply chains in Africa Project (ACCEL Africa) の活動をご紹介します。

ILOはその名の通り、「労働」に特化した国連の専門機関で、主要戦略目標とし、「仕事の創出」、「社会的保護の拡充」、「社会対話の推進」、「仕事における権利の保障」を掲げています[i]。具体的には国際労働基準の制定、基本的人権の推進、労働・生活条件の向上、雇用機会の機会の増進のための国際的な政策や計画の策定や、各国が政策を実施する上で必要とされる技術協力の提供等を行っています。ILOは労働に焦点を当てていることから、国連機関としては唯一、三者構成(政労使)の原則を持ち、政府、労働組合と使用者団体間の社会対話(Social Dialogue)[ii]を重視しているのが大きな特徴です。

今回、レポートの執筆にあたり、ACCEL Africaの総括を務めるILOのChief Technical Advisorの小笠原稔氏からお話をお聞きしました。お話を伺って印象的だったのは、ACCEL Africaでは、児童労働の根本原因にアプローチすること、コートジボワール政府が実施しているプログラムを大切にすること、そしてILOの強みを生かすことを意識して実施しており、その中でいくつかの画期的な成果が生まれているという点でした。

 

ACCEL Africa

ACCEL Africaは、コートジボワールをはじめとするアフリカ各国で、カカオやコーヒー、コットン、金などのサプライチェーン上の児童労働の問題に取り組むプロジェクトです。オランダ政府の資金援助により実施され、第1フェーズは2018年11月~2023年6月の5年間で、コートジボワール、エジプト、マリ、ナイジェリア、マラウイ、ウガンダを対象に実施されました。第1フェーズでの成功を受け、2023年7月から第2フェーズが、コートジボワール、ガーナ、ケニア、マリ、ナイジェリア、ウガンダで実施されています。

コートジボワールでは、政府の要望に従い、カカオと金のサプライチェーンを対象に活動しています。近年、違法な金採掘によるカカオセクターへの負の影響が、ガーナなどの近隣諸国で問題になったいることを受け、この2つの産業を対象にしていると考えられます。

ACCEL Africaは、児童労働の根本原因にアプローチすることを重視しており、政府や他の援助機関、企業、労働組合などと協力し、生産現場から政府・政策レベルまで、サプライチェーン全体にわたる包括的な活動を実施しています。このレポートでは、コートジボワールのカカオセクターにおける取組についてご紹介します。

 

生産現場レベルにおける活動

まず、カカオ生産現場レベルで行われている活動として、主に1)国民健康保険への加入促進支援、2)労働安全衛生活動の推進、3)金融アクセス支援についてご紹介します。

 

1)健康保険への加入促進

児童労働が起きる背景の一つに、家族の成人メンバーが病気やケガにより働けなくなった時の脆弱性があります。ACCEL Africaがカカオ生産地域で行った調査では、家族内で病気や健康に関する問題が起き、成人が働けなくなった場合、その代替えの労働力として児童労働が起きる傾向が高いことがわかっています[ⅲ]

一方、コートジボワール政府は、2014年にNational Social Protection Strategy(NSPS)を採択し、社会保障制度の一つの柱として、国民健康保険制度を導入しています。この制度は、日本の国民健康保険のような制度で、1人当たり毎月1,000CFAを支払うことで、医療費負担が7割になり、マラリアなどの病気の治療は無料になるというものです。政府は健康保険への加入を義務付けていますが、普及率は依然として低く、特にインフォーマルセクターや地方部の農村地域では、加入が進んでいない状況です。

そこで、プロジェクトでは、国民健康保険を運営するNational Health Insurance Fund(CNAM)、カカオ豆の買い取りと輸出を行うOlam社、農民組織である農民協同組合(Cooperative)と協力し、カカオ農家の国民健康保険加入支援を行いました。この取り組みでは、CNAM、Olam社、Cooperativeの三者が取り決めを結び、毎月の保険料は、Olam社が支払うカカオ豆の買取価格に含め、CooperativeがCNAMに支払う仕組みになっています。

チョコレートの持続可能性を考える②で紹介した通り、これまで、企業によるカカオ農家支援の多くは、カカオの生産性向上や営農指導、児童労働監視システムの導入等が主なものでしたが、コートジボワール政府の既存の制度を利用した健康保険への加入というこの取り組みは非常に新しいものと考えられます。この画期的な取り組みに対しては、他のチョコレート企業も関心を示しており、さらなる広がりが期待されます。

一方で、この制度では、CNAMが提供する医療サービスの質をいかに担保するかが課題の一つとして挙げられます。健康保険に加入したとしても、そのサービスを受けられる医療機関が身近になかったり、サービスの質が低くては意味がありません。この課題に関しては、コートジボワール保健省やCNAM等との連携を通じて引き続き、取り組んでいくこととなります。

プロジェクトでは、今後、健康保険への加入が実際に児童労働にどのような影響を与えているかを調査し、発表することを予定しています。

 

2)WINDアプローチによる労働安全衛生活動の強化

 安全な労働環境の欠如は、労働によるケガのリスクが高まるだけでなく、子供を危険な作業に従事させてしまう事にもつながります。ACCEL Africaでは、WIND(The Work Improvement of Neighborhood Development)アプローチを通じた労働安全衛生活動を行っています。WINDアプローチとは、農民自身が参加しながら、自分たちの労働環境の改善を自発的に、そして身近なもので、低予算で行うことを目指すILOのアプローチです。

 コートジボワール政府は、児童労働撲滅のための国家行動計画(Nation Plan to Combat Trafficking, Exploitation and Child Labour: NAP 2019-2021)において、このWINDアプローチを通じた労働安全衛生インスペクターの能力強化の必要性を明記しています。そこで、ACCEL Africaは、この活動を、The Ministry of Employment and Social Protection(Department of Safety and Health and Department of Labour Inspection)、National Agency for Rural Development(ANADER)The Coffee and Cocoa Councilと協力して実施しています。

実際に、この活動を通じて、カカオの実を割る簡易機械(下記写真)が完成しました。通常、カカオの実は、左側の写真のように、手の上での鉈のようなものを使って割られていました。しかし、この機械の導入により、作業の危険性が低下したほか、作業効率が飛躍的に向上しました。この機械には、現在も少しずつ改良が加えられ、実を割った後に豆が集めやすいよう台の一部に穴があけられる等の工夫が加えられているそうです。

 

左:従来のカカオの実を割る方法    右:WINDアプローチにより導入された機械

出典:The WIND approach and strategic interventions on labour inspection: Improving working and living conditions through local solutions

 

3)金融支援

ACCEL Africaでは、ファイナンシャルセクターがカカオ産業の児童労働撲滅に果たす役割について調査し、提言をまとめています[ⅳ]。この調査では、カカオセクターに関わる銀行のアクションによっては、児童労働によるカカオの生産が助長されている可能性があり、銀行はその状況を改善する力があるとしています。

この調査結果を受け、ACCEL Africaでは、マイクロファイナンス機関に対して、貸し付け金が児童労働などの人権にどのような影響を持つか等を教えるFinancial Educationマニュアルを作成し、金融機関向けのトレーニングを実施しています。

また、農民の金融アクセス支援として、協同組合を通じたVillage Saving Loan Association(VSLA)の枠組みを支援しています。VSLAとは、農民が小規模のグループを作り、各メンバーが少額を持ち寄り、共同の貯蓄をし、その貯蓄金をグループメンバーに対するローンや、緊急時の資金として活用するものです。

 

その他の活動

ACCEL Africaでは、生産現場レベルでの活動以外にも、政府・政策、労働組合、企業に対する活動も行っています。政府・政策に対しては、NAP2019-2021の実施支援や新しい行動計画の策定支援、雇用省(Ministry of Employment)に対するキャパシティビルディング支援等が挙げられます。特にNAP2019-2021の実施支援では、コートジボワール政府が開発した児童労働管理システム(Child Labour Observation and Monitoring System:SOSTECI)の実施に関する能力強化トレーニングや、他のアクターが実施する児童労働モニタリングシステムとの協力関係強化を支援しています[ⅴ]

また、ILOが重視する労働組合に関しては、国内に多数存在する労働組合のコーディネーションやプラットフォームづくりを支援しています。一方、民間企業に対しては、企業の共同体であるConfederation General de Enterprises de Cote d‘Ivoire(CGECI)という商工会議所のような機関を通じて、Private Sector Initiative to Combat Child Labour and Forced Labour (ITEF Platfor)というプラットフォームづくりを支援し、企業による児童労働に対する取り組みを支援しています。

 

このようにACCEL Africaでは、生産現場レベルはもちろんのこと、政府、企業、労働組合など多様なアクターを巻き込みこんだ取り組みを行っています。現在実施中のフェーズ2でも引き続き、ILOの強みを生かし、児童労働の根本原因にアプローチする画期的な取り組みが展開されることが期待されます。

 

2024/5/6

ライター:橘 欣子

チョコレートの持続可能性を考える①

チョコレートの持続可能性を考える②

チョコレートの持続可能性を考える③

 

[i] https://www.ilo.org/tokyo/about-ilo/lang--ja/index.htm

[ii] ILOでは、社会対話を「政府、使用者、労働者の代表が、経済・社会政策に関わる共通の関心事項に関して行うあらゆる種類の交渉、協議、あるいは単なる情報交換」と定義しています。

[ⅲ] https://www.ilo.org/africa/technical-cooperation/accel-africa/WCMS_868013/lang--en/index.htm

[ⅳ] https://www.ilo.org/empent/areas/social-finance/publications/WCMS_858641/lang--en/index.htm

[ⅴ] https://www.ilo.org/africa/technical-cooperation/accel-africa/cote-d-ivoire/WCMS_764094/lang--en/index.htm