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チョコレートの持続可能性を考える⑤ Cémoi工場見学レポート

 

前回の記事「チョコレートの持続可能性を考える③」でご紹介した通り、近年、コートジボワール政府は、カカオの加工に力を入れており、アビジャンにも、カカオ加工工場がいくつかあります。そのうちの一つ、フランスのチョコレート・メーカーCémoiの工場では、一般向けの見学ツアーを実施しています。今回、機会があり、このツアーに参加したので、その様子をレポートします。

Cémoi

日本ではあまりなじみがありませんが、Cémoiはフランス最大の老舗チョコレート・メーカーです。1814年に設立された会社が母体となり、買収や合併を経て、1981年に当時フランスで知名度の高かったチョコレート会社Cémoiとの合併を機に、社名をCémoiに変更し、現在に至ります 。
 Cémoiは、カカオセクターのサステナビリティを高める取り組みにも力を入れています。世界のチョコレート会社のサステナビリティ度をランキング付けしている、Chocolate Scorecardでも、Cémoiは毎年、上位にランクされています。
Cémoiのサステナビリティに関する取り組みは、2015年に立ち上げられた独自のプログラムTransparence Cocoaを通じて実施されています。Transparence Cocoa では、より効率的な栽培方法等を教えるGood Agricultural Practice(GAP)のトレーニング、収入向上活動、児童労働の撲滅のための活動、森林保全などの活動を行い、Cémoiが調達するカカオ豆をこのプログラムに参加する農家から調達しています。実際に、CémoiのチョコレートにはTransparence Cocoa のマークが付けられています。

Cémoiとコートジボワール

Cémoiのコートジボワールにおける活動は、長年の歴史に支えられています。Cémoi は、1970年代よりコートジボワールのカカオ農園を直接訪問し、カカオ豆の調達を行っています。2024年1月に公表されたCémoiのカカオ豆サプライヤーリストによると、100件のサプライヤーの内、96件がコートジボワールの協同組合であり、カカオ豆の供給の大部分をコートジボワールに頼っていることがわかります。
また、Cémoiはコートジボワールを単に原料の生産地として位置づけているだけではなく、加工にも力を入れています。1996年にカカオ加工工場を操業、その後、2015年には外資系チョコレート会社として初のチョコレート製造工場を操業しています。特に、2015年に開設されたチョコレート製造工場は、コートジボワール国内市場をターゲットにしたチョコレートも製造しています。Cémoiは、早い段階からコートジボワール国内や周辺国でのチョコレート需要を見越し、コートジボワールの気候や消費者のテイスト、消費行動に合うチョコレートの開発を行ってきました 。そして、この工場でつくられる国内消費用のチョコレートは、Cémoi としてではなく、Chocofunという別のブランド名で販売しています。Chocofunは、他の輸入品のチョコレートに比べ低価格です。また、小さな一口サイズのチョコを一般消費者でも購入できる価格で販売するなど、コートジボワールの消費文化に合わせたマーケティング戦略をとっています。実際に、コートジボワール人の知人は、Chocofunを気軽に購入できるおいしいチョコレートと認識しており、それがCémoiの製品だとは知らず、コートジボワールのメーカーだと思っていました。

見学ツアーでは、カカオ加工工場とチョコレート製造工場を見てきましたので、その様子をご紹介します。

工場見学ツアー

Cémoiの工場は、アビジャン中心地から車で30分ほど離れたYopougon Zone Industrial(ヨプゴン工業団地)の中にあります。この工業団地は1972年に開業し、620ヘクタールの広さを誇ります。工業団地に入るとすぐに、Cémoiの工場がありました。

Cémoiの工場入口

見学ツアーは、まず、敷地内の試験農園から始まりました。試験農園には、たくさんのカカオの木が植えられ、実や花をつけている木も多数見られました。また、同じ場所に、バナナの木も植えてありました。バナナの木は、雨季には水を吸収し、乾季には水を土に返す性質があるため、カカオの育成に重要な役割を果たしているそうです。

  

カカオの収穫は通常、1年で複数回ありますが、今年は病気や降雨量の影響で、試験農園での収穫量が落ちているそうです。実際の産地でも、今年は雨と病気により収穫量が減少し、カカオ豆の高騰が起きています。

試験農園の次は、農園から運ばれたカカオ豆の荷下ろし場と倉庫です。入荷されたカカオ豆は、まずサンプル検査にかけられます。品質に問題がなければそのまま納品されます。万が一、問題があった場合は、次年度以降の収穫で改善ができるようフィードバックをつけて返品しているそうです。

  

この写真はカカオ豆を保管する倉庫です。ハイシーズンにはこの倉庫が豆の袋でいっぱいになるそうです。

入荷された豆は、まず豆をきれいにする機械にかけられます。この機械で70-80%の汚れが取れるそうです。

ある程度きれいになった豆は、次にふるいのような機械にかけられ、ごみや金属片などの異物や欠損した豆が取り除かれます。

その後、熱処理を行い、外皮を取り、カカオニブと呼ばれる胚乳部分を取り出します。このカカオニブを加工し、チョコレートの原料となる中間加工品が作られます。実際に、カカオニブを試食させてもらいましたが、苦みと酸味が強く、決しておいしいものではありませんでした。

ここから先は実際の焙煎、加工となるのですが、残念ながら写真撮影はできませんでした。カカオニブを高度の熱で殺菌、焙煎、練ることでカカオリカーという液体ができます。カカオリカーを冷やして固めるとカカオマスになります。カカオリカーに圧力をかけ、油脂分を抽出したものがカカオバターです。これらの加工の工程はすべてコンピューター管理されていて、異常が発生するとコンピューター上にサインが出る仕組みになっていました。

完成したカカオマスとカカオバターは1トンずつパレットに積まれ、出荷の時を待ちます。

次は、チョコレート工場です。

2015年にオープンしたチョコレート工場は、加工工場のすぐ隣にあります。開所にはコートジボワールの大統領が出席し、それを記念する碑も飾ってありました。
残念ながら工場内は撮影できませんでしたが、チョコレートができる様子を説明してくれました。

この工場で作っているのは、上記の商品です。商品は主に3つのカテゴリーに分けられます。①ココアパウダー、②パンやクレープなどに塗るチョコレートペースト、そして③チョコレートです。一般消費者向け以外にも、業務用のチョコレートや、パンオショコラ用のチョコレートなども作っています。
どの商品カテゴリーも、CémoiブランドとChochofunブランドの2種類があります。前述の通り、Chocofunブランドはコートジボワール国内用です。Cémoiブランド商品は落ち着いた重厚感のあるパッケージですが、Chocofunは明るい黄色を主体としたポップなパッケージになっています。後日、スーパーで両方の商品を比較してみると、Chocofunのチョコペーストは500gで1,675CFA(約400円)、Cémoiのチョコペーストは同量の物が3,750CFA(約920円)で売られていました。

これで、見学ツアーは終わりでしたが、ツアーの最後に参加者全員にチョコレートのお土産をくれました。見学ツアーの参加料は、4歳から12歳が3,000CFA(約750円)、12歳から18歳が5000CFA(約1200円)、18歳以上が10,000CFA(約2,500円)でしたが、このお土産で元が取れたのではないでしょうか。

 

大人用のお土産(左)と子供用のお土産(右)

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チョコレートの持続可能性を考える① カカオ産業の課題

チョコレートの持続可能性を考える② 持続可能なカカオ生産のための取り組み

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